永禄三年、甲斐の武田軍は信濃へ侵攻した。山本勘助が考案した「啄木鳥戦法」は、複数の部隊が木を突くように敵陣を攻める奇策だった。しかし、上杉謙信はこの策を見抜き、武田軍は大敗を喫することとなる。

この戦いの教訓をご存知ですか、ご主人
誠也のパソコンの画面に、AI軍師の姿が映し出された。休日の自室で、誠也は新しい企画書の作成に取り組んでいた。



啄木鳥戦法は、確かに革新的な戦術でしたが、基本を疎かにしていた。それが敗因だったと聞いています



その通りです。複雑な戦術を編み出す前に、基礎を固めることが重要なのです。AIとの対話も同じこと。プロンプトという、AIへの指示の基本を学びましょう
誠也は真剣な表情でうなずいた。この一週間、彼は様々なAIツールを試してきた。しかし、思うような結果は得られていない。



まずは、シンプルなプロンプトから始めましょう。具体的な指示、明確な目的、そして適切な文脈の提供。この三つが基本となります
AI軍師の指導の下、誠也は企画書作成のためのプロンプトを書き始めた。しかし、最初の試みは惨憺たるものだった。
AIさん、企画書を書いてください
画面に表示された返答は、あまりにも一般的で使い物にならないものだった。



ご主人、これでは啄木鳥戦法の二の舞です。より具体的に、どのような企画書が必要なのか。対象は誰か。目的は何か。これらを明確にする必要があります
誠也は深く息を吸い、再度挑戦した。
新入社員向けのデジタルスキル研修企画書を作成してください。目的は、基本的なAIツールの使用方法の習得です。研修期間は3日間を想定しています



よろしい。しかし、もう一歩踏み込みましょう
AI軍師は、プロンプトの改善点を一つずつ指摘していく。対象者の現在のスキルレベル、具体的な到達目標、研修後の評価方法。これらの要素を加えることで、プロンプトは徐々に洗練されていった。



山本勘助は、失敗から多くを学びました。その経験が後の勝利につながったのです
その言葉に励まされ、誠也は何度も試行錯誤を重ねた。休日の午後は、まるで修行のように過ぎていく。



お父さん、まだパソコン?
ドアの外から美咲の声が聞こえた。



ああ、ちょっと仕事の準備をしているんだ



私も手伝おうか?この前の動画で、企画書作成に使えるAIテクニックがあったんだけど
誠也は驚いた。普段はクールな娘が、自分から手伝いを申し出てくるなんて。



ありがとう。でも、その前にお父さんからも教えられることがあるんだ
誠也は、この一週間で学んだプロンプトの基本について説明し始めた。AI軍師から教わった内容を、自分の言葉で噛み砕いて伝える。その過程で、自身の理解も深まっていくのを感じた。



へぇ、そうなんだ。私、ただコピペで使ってたけど、そうやって考えて指示を出すの、初めて知った
父娘の会話は、予想以上に盛り上がった。美咲は自分が知っているAIの使い方を教え、誠也はプロンプトの基本を説明する。その相乗効果で、企画書は驚くほど良いものに仕上がっていった。



ご主人、これぞまさに切磋琢磨。親子で学び合うことで、新しい知恵が生まれるのです
AI軍師の言葉に、誠也は心の中で同意した。かつての武将たちも、若い家臣たちと議論を重ねることで、より良い戦略を生み出してきたはずだ。
夜が更けていく中、企画書は完成に近づいていた。基本に忠実でありながら、創意工夫が光る内容に仕上がっている。



明日の会議で、この企画書を発表することになっています
誠也の言葉に、AI軍師は静かにうなずいた。



恐れることはありません。啄木鳥戦法の失敗から学んだように、基本を押さえた上での挑戦は、必ず実を結ぶはずです
翌日の会議。誠也の発表を聞いた部長の表情が、徐々に明るくなっていく。



五十鈴さん、これはいいですね。特に、新人のレベルに合わせた段階的な学習プランが素晴らしい。AIツールの活用も効果的です
その言葉に、誠也は小さな達成感を覚えた。基本から積み上げてきた努力が、確かな成果として表れたのだ。
会議室を出る際、若手社員の一人が声をかけてきた。



五十鈴さん、すごくわかりやすい企画書でしたね。私も、ぜひAIの使い方を教えてもらえませんか?



ああ、もちろんです。まずは基本から、一緒に学んでいきましょう
帰宅後、リビングで美咲が待っていた。



お父さん、企画書どうだった?



うん、上手くいったよ。美咲のアドバイスのおかげだ
娘の笑顔に、誠也は心が温かくなるのを感じた。
その夜、AI軍師は誠也にこう語りかけた。



これは始まりに過ぎません。プロンプトの基本を学んだことで、より高度な活用への扉が開かれたのです
誠也は頷いた。確かに、まだ道のりは長い。しかし、基礎を固めることの重要性を、身をもって理解することができた。それは、これからの戦いに向けての大きな一歩となるはずだ。
窓の外では、満月が輝いていた。その光は、かつての武将たちも見上げた月の光。時代は変われど、基本を重んじ、一歩一歩前進することの大切さは変わらない。誠也は、その普遍の真理に思いを馳せながら、次なる挑戦への決意を新たにしたのだった。